Rim Design Office

一級建築士事務所

鹿児島の調査記録②

前回記事「鹿児島の調査記録①」では屋外を見て回ったが、今回は小屋裏、床下の調査からスタート。

 

室内にもどり書斎クローゼット内にある天井点検口から小屋裏に登った。高温で汗が噴き出す。
温度36℃、湿度45%。 温まった空気が屋外に排出されておらず、小屋裏の換気が十分ではないようだ。
天井点検口を開けていると室内の空気が小屋裏に勢いよく入ってくる。小屋裏の高い位置の妻面に換気口60Φ程度が東西にそれぞれ2個あるが、50坪の平屋の換気口としては不足。

フラット35対応の木造住宅工事仕様では天井面積の1/250 (約0.64㎡)は必要だ。
天井断熱の袋入りグラスウールが敷いてあるが、ところどころ隙間があり、また、間仕切り壁の頂部が気流止めがないことが分かる。

構造体にカビや結露跡、腐食などはない。金物に若干錆があるが、常に多湿ということではなさそうだ。雨漏りもほぼなし。

 

次に床下。

床下点検口から潜ると、地面はむき出しで防湿フィルムなどはなし。これもこの年代の木造建築では一般的。
地面を触るとひんやりしていて、やや湿気を感じるが、床下換気ができているため、床下が湿潤ということはない。定期的に床下に防蟻剤をまいているため、床下もきれいだ。

10年前のリフォームでいくつかの居室の床下には断熱材のスタイロフォームが入れてああるが、ところどころはがれて落ちかかっている。床束の木材には若干カビが見られる。
床下配管の水漏れはない。床下の状態を概ね把握し、これで私の調査は終了。

 

小屋裏の調査であまりにも汗だくになったので、恐縮ながらシャワーを浴びさせてもらい、スッキリしたところで、調査結果を整理し、カビ・結露の原因は以下の4つと考えた。

①窓を閉めることと、換気扇が少ないことによる室内空気の滞留
②夜間の放射冷却による温度低下した小屋裏空気が天井断熱の隙間から間仕切り内に入り込むことによる間仕切り壁面の結露
③床下地面からの湿気の上昇
④夜間の屋外温度低下が室内壁面、床面を冷やすことで起きる結露(壁・床の断熱不足)

現代の木造住宅は高気密、高断熱で湿気が構造体に入らないことと温度調整した室内空気が外気の影響を受けにくくするというコンセプトで作られている。
一方、今回のような木造家屋は断熱という概念が薄く、まさに家屋は夏を旨として作るべし、的な風通しを良くして、空気の循環により快適空間を保つというコンセプトだ。こういった建物で外気の影響を少なくする現代住宅的な断熱、気密改修は費用対効果も悪く、満足のいくレベルまでの施工も望めない。


よって、まずはできる範囲での対策となるが、
・室内空気の滞留防止
放射冷却による床・壁面の温度低下の抑制、
・室内湿度の低下
をコストを見ながら対策していきたいと思う。

<対策1>
結露の多いクローゼットに換気扇を設置し、クローゼット扉をガラリ付きに変更。
→クローゼットに接する居室内の空気をクローゼットを通して屋外に排気することで
居室内、クローゼットの空気の滞留を防止する。

<対策2>
室内に壁づけ除湿器を設置
→カビの発生する環境は温度20℃~35℃、湿度70%以上。
家電量販店で購入できる床置き型除湿器との違いは除湿する水分をタンクにためて捨てる手間がなく、除湿した水分は直接屋外に空気と一緒に排出できる。

※壁づけ除湿器カライエ/ダイキン

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<対策3>
小屋裏に小屋裏換気口の追加
→室内の湿気を含んだ温かい空気は天井を通過して小屋裏に上がるが、そこでスムーズに屋外に排出される空気の流れを作る。

※小屋裏換気口:屋外換気口 樹脂/木枠留め用/壁面フラットタイプ KS-85P /ナスタ

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<対策4>
間仕切り壁頂部が小屋浦に開放されている部分をふさぎ、小屋裏からの冷気が間仕切り壁内に入り込むことを防止。また、天井敷き込み断熱材の隙間をなくし、天井断熱の効率を上げる。

<対策5>
床下に防湿シートを敷き込み、地面からの湿気の上昇を抑制。
ただし、新築で防湿シートを敷くのとは違い、床や束がある状態で、隙間なく施工するのは難易度が高く、コストアップにもつながることや、床下換気が確保されていることから、費用対効果を見ながら実施の可否を判断していくようにしたい。

以上が調査を踏まえた原因と対策のまとめとなった。
来年の梅雨時までに工事を終えられるよう、見積、工事を地元工務店と協力して行っていくこととなった。

最後に今回の調査に先立ち、結露、カビ事例の把握としてとてもわかりやすく参考になった本があったのでここにあげておきたい。

100の失敗に学ぶ結露完全解決

100の失敗に学ぶ結露完全解決

 

鹿児島の調査記録①

お世話になっているクライアントの実家でカビが発生して困っているという話から、原因を突き止め改善策を立てるために一泊2日で実家のある鹿児島まで調査に向かった。今回は少し長くなるが、調査の様子と対策をまとめてみる。

当日は快晴、日中の気温は30℃を超えている
築36年木造50坪の平屋の日本家屋だ。
10年前に屋内のリフォームを行っていて、キッチン、便所などの水回りを移動し、
浴室を在来からユニットバスに変更している。

カビは梅雨時に多く、複数のクローゼットや押し入れ全般、その中の衣類、家具、畳などで
クリーニングに出した衣類のビニールを外してクローゼットにかけていても
一晩で衣類にカビが生えてしまうそうだ。

カビは湿度の高い空気が動かずに滞留することで発生しやすいため
まずはその原因調査。湿気、空気の滞留の原因を探ることにした。
床下や小屋裏の換気不足で湿気が滞留していることも予測されるが
安易に床下や小屋裏に換気扇を設置するような対処療法は避けたいと思っていた。

屋外から調査を開始。まずは床下換気口表面で風速を測定すると平均0.3m/s程度あり、換気口のつまりもなし。
緩やかな自然通風があり、床下が多湿という状態ではなさそうだ。
次に小屋浦換気口。入母屋屋根はセメント瓦葺き。

小屋裏換気は軒下に換気口をつけることで行っている。風量計をあてると換気口の表面風速がかなり弱い。
小屋裏は換気不足の感。

浴室、レンジフード、便所の換気扇は問題なし。浴室の換気ダクトが天井内で外れ、
浴室の湿気た空気が天井内に拡散され、カビが広がる事例もあるのでダクトも要確認ポイントの一つだ。

次に屋内を一通り見て回る。今日は湿度が50%程度なので、カビが生えているところはないが、木製建具の鴨居、建枠などに結露を繰り返したような跡が見られる

換気扇はトイレと浴室、キッチンのレンジフード。室内の空気を滞留させない観点では
居室にはやはり換気扇を設置したいところだ。
建築基準法では人の過ごす部屋はシックハウス対策のために24時間換気設備が義務付けられているがそれも2003年以降のため、この年代の建物では一般的な状態だ

クローゼットの扉は通気口やガラリがないので扉を閉めると中は空気の流れがなく、結露しやすい環境。

鹿児島は周知のとおり桜島の噴火があるので、火山灰が市内に飛ぶことがある。
窓を開けていれば当然室内にも入る。
クライアントのご両親は鹿児島以外での生活が長かったこともあり、火山灰の中での生活に慣れていない。
そのため、窓を締めて空調する生活が多く、特に空調されていない部屋や時間帯は結露もしやすい環境が推測される。

今回の調査は地域環境をよく知る地元工務店に施工側の意見も聞いてみたいと思い、
住宅インスペクションを一緒に依頼した。

 

調査前、多湿を理由に床下でシロアリが発生して土台などの構造体が被害を受けている事態も心配していたが、その点は、インスペクション結果でも問題なし。外壁に軽微なクラックが見られる程度で建物の状態は健全であった。

これは家主の定期的なメンテナンスの効果が大きい。家主のお父様は修繕を細かく記録されており、今回のような原因を探っていく際に大変役立つ。

次回は「鹿児島の調査記録②」にて小屋裏、床下調査、原因、対策をまとめます。

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鹿児島2日目の朝日と海と桜島

 

 

 

足場解体

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墨田区で進めている集合住宅工事の足場解体が始まりました。

建物は着工から上棟、屋外の仕上げ工事が終わるまで常に足場に囲われて工事が進めれますが、今日はその足場が解体される日です。
思ったより細長い建物に見える、あそこはうまくいった、など色々な思いが浮かびます。

クライアントとの打ち合わせを経て作成した図面が現場監督や施工会社の沢山の担当者、設備業者、職人の手や気持ちが加わって形として現れます。
現場事務所で何度も密に打合せをしたベテランの施工図担当の顔が浮かびます。

足場が外れて、工事はこれから終盤戦。

若手の現場監督は今日も職人たちや業者との調整で忙しく動きまわっています。

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東京下町の外科医先生

集合住宅工事で事前挨拶や工事のお知らせで近隣訪問をしている中で
興味深い話をして下さる方がいます。
墨田区で個人医院を開業していた91歳の外科医の先生です。
初めて工事挨拶で伺った際、今は閉院している外科医院の待合室で
沢山お話を伺いました。

戦争を体験されており、空襲では墨田区も一面焼け野原になり、先生ご自身はレンガ塀の影に隠れて空襲を免れたそう。当時は街を歩くと白骨がいたるところで目につくような時代だったそうです。

そして最近この外科医先生に自分の作品が載っていると同人誌を手渡されました。
この年齢で執筆活動をしていることに驚きます。

早速帰って読ませていただきました。
さいころの記憶、早くに亡くなったお兄様との遠出、外科医を引退してからの
心模様、毎日の精神の広がりなどが小説に綴られていました。
先生の心の中をまさしく覗いているような感覚になりました。

自分の考えを他人に伝えるためには、言語化、文字化、映像化など他にも沢山ありますが、例えば文章であれば、使う表現や、言葉の選択、リズム感などで読み手が受ける印象は全く異なります。
そういったことを一つ一つ積み重ねながら自分の考えを形にする執筆という行為はとてもクリエイティブです。

外科医先生もこの年齢でまだまだ心も体もお元気で執筆活動をされており、とても素晴らしいと感じます。
いつまでもお元気でいてほしいし、次に会うときは新しい作品も楽しみにしていることを伝えたいと思います。

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